ゆっくりと首を引いた瑞香はどこかすっきりとしていた。

「ありがとうございます。最後に一つだけいいでしょうか」

「言ってみな」

 自分が助けようとしていた子がちゃんと成仏できたのか気になって仕方ないと正直に言った。

「ああ、その子はここにはもういないよ。瑞香さんがそのことでいつまでも苦しんでたらその子もきっと悲しむぜ」

 太郎はそれだけ言うと、瑞香の肩に手を置いて、

「この男はこれから苦しむから、ようく見ておくといい。残念ながらあんたがこの男に直接手をかけるのは今ではないけれど、それでも、惜しみない苦しみが未来永劫終わることなくこれからやってくるから」

 二回、瑞香の肩を叩くと、あとは時間の問題だ。あんたはそれまで『また』消えることになると思うけど、こいつの苦しみはいつでも見られる状態にあることを忘れるんじゃ無いよ。

 瑞香は太郎が言った『また』という言葉を反芻した。そして、眉間に皺を寄せて力強く頷くと、はっきりと怒りを込めた目を司に向けた。

 司は一心不乱に土を掘り起こしていた。
 厳密には土に触れることはできないけれど、自分に火をつけて置き去りにした家族のことをなかったことにしようと、瑞香を生き返らせようと狂ったように土の中に手を突っ込んでいた。