嘘だ。嘘だ。と現実逃避を始める司は、俺は他人の子を育てていたのか。自分の子供だと思っていたのに、他人の子だったのか。と信じられない。信じたくないと顔を大きく左右に振り続ける。

「なあ、教えてくれよ。妻はともかく、こどもらはまったく気づいてなかったんだよな。そうだろ、父親が違うなんて知らなかったんだろ」

 太郎にすがりつくが、その手を軽くいなし、

「知ってたさ。時間をかけて説明したんだ。お前の妻は頭が良かっただろう。ゆっくり刷り込むようにして、理解させた。そしてお前が完全にこの家族に心を許すのを待った。家族が宝物に変わるのを待ってたんだ。復讐するためにな。だからお前に逆らわず、波風立てず、こどもたちだってお前に何もねだったりもしなかっただろう」

「それは俺の育て方がよかったから、」

「何言ってんだよ、父親のすることはぜんぶその男がしてたんだよ。本当の父親だからな。子供たちはその男に甘えてたんだ。つくずく馬鹿だなおまえは」

 呆然とする司に、太郎は、

「やっぱおもしれえ。死んでからも悩むんだな人間てもんは。どうなるわけでもないのに」

 と目をまん丸にして司を凝視した。

「太郎ちゃん、面白がってないで、この先をさっさと教えてやんなさいよ。ここからが一番おもしろいんだから」

 昭子が太郎の着物の袖を引っ張り、話の先を聞かせろとねだる。司の慄く表情が見たいのだ。わかったと頷き、