麻布十番の妖遊戯

 しかも両手は縛られたまま。
 うまく歩けないしもちろん走れない。

 何かを踏んで音がしたら気づかれてしまう。
 そう思うと全身から冷たい汗が吹き出しました。顔を拭うことも出来ず、肩をあげて服で顔を拭きつつ息を殺して門まで歩きました。

 母屋は真っ暗で静かでした。

 良かった。寝ていると思いました。
 地面に何か無いか、音のするものや金属音を響かせる物がないか目を凝らして歩きました。
 なので、腰を低くして歩いていたんです。

 門を見つけた時にはこれで助かるって思ってホッとしました。
 門の外には街頭が朧げに光っていました。

 助かった。ここを出たらすぐにお巡りさんに助けを求めよう。
 そう思ってホッとしたのがいけなかったんです。油断してしまったんです。

 腰を思い切り伸ばして走り出そうとしたところに物干し竿があったんです。
 頭にガツンと当たり、金属音が夜の中に響き渡りました。

 やばい。そう思いましたが思い切り頭をぶつけて目の前に星がたくさん飛んでいたんです。クラクラして足取りが悪くなりました。

 逃げなきゃと思えば思うほど足がもつれうまく走れない自分自身に、物干し竿なんかにぶつかった自分に情けなくてイライラしたのを覚えています。
 そうこうしていうちに母屋に明かりがつきました。