麻布十番の妖遊戯

 それからまた辺りに気を張り、近くに男がいないかどうか目を細くして見て、ようく耳を澄ませて辺りの音を聞きました。心臓がドキドキしていました。

 体が通るくらいドアを開けてすり抜けると小屋に背をつけて周りがどうなっているのか見回しました。
 辺りは雑草が茂っていて、これはいい隠れ蓑になると思いました。

 小屋のドアを背にして右側に大きな家がありました。たぶん母屋でしょうか。見える範囲ではそれしかなかったので、あの男はきっと母屋にいるんだと思いました。
 左側は、そうですね、細い木が何本か立っていて蔓状のものがありました。ああ、そうです、そうです、畑になっていたんです。家庭菜園かなにかだと。

 え? だから妖怪はどこから出てくるのかって? 昭子さんまでそんなことを言うんですか。ちょっと待ってくださいよ。私だって少しずつ思い出してるところなんですから静かに聞いててもらっていいですか。
 それで、そうそう、家庭菜園のような畑があったんです。

 暗闇の中だったのでどのくらいの広さなのかはわかりません。ぐるっと見回して門がどこか探しました。

 ええ、田舎の家は広いんですよ。門を入ってから母屋までが長いんです。
 この家は裏門がない造りになっていましたから逃げるためには母屋の前を通過して表門まで行かなきゃならなかったんです。

 何も身を隠すものがないところを歩いて行くのは恐怖しかありませんでした。