「そのノートは妖怪の話を書くために渡したもんじゃあねえけどな。俺は花とか木とか田んぼとかの景色の絵でも描いてろって言ったんだ。どうせ描くなら絵だろ、絵」

 侍がたまこのノートを一つ叩く。

「でも、妖怪はいたよ」

「絵の話は無視かよ。ああそうだな。おまえの目の前にな。しかも二人。でも俺は違うからな」

 太郎と昭子に指を向け、俺はぜんぜん違うと主張した。

「よく言うね。あんたも今じゃ妖怪そのものじゃないか」

 昭子が侍の背中を思い切り叩く。痛がる侍ににんまりと訳あり顔を見せた。
 太郎が、残念だったなと侍の肩を軽く叩く。
 たまこはノートの背表紙を撫でた。

「どんな感じだい?」

 すかさず太郎がたまこに聞く。その目は真夏の昼時のクソむかつく太陽のように輝いていた。

「いつもこのノートを見るとなんか悲しい気分になる。冷たいし、寂しいし、悔しいしでも離したくない。絶対に離したくない。そんな感じ」

 三人が唸る。これはこれはと太郎が昭子が侍が己らの顔を何度も見合い、たまこの言ったことを反芻する。そして、