四

「昭子さん、いつまで寝てるんですか。起きてくださいよ。そろそろ時間ですよ」

 昭子の肩を優しく揺らして起こしている太郎は、こたつの上に置きっぱなしになっている飲んだ形跡のない湯呑みに入っているこんぶ茶に顔を近づけて、「もったいない」と湯呑みに向かってことばを吐く。

「昭子さん、とっとと起きてくださいよ。いつまでも横になって邪魔くさい」と横になっている昭子の背中を蹴ってみた。いきなり起きて怒られるのも怖いのですぐに太郎の後ろに隠れた。

「おいおい侍さん、それじゃあ俺が蹴ったみてえになるじゃねえか」

「だって怖いだろうよ、もし起きたら」

「だったら最初から蹴るなよ、俺だって怖いんだから。こうやりゃ一発さ。俺はこの前ので一つ学習したことがある」

 腕組みをし、侍に笑いかけた太郎は、

 にゃあお。

 猫がエサをくれといわんばかりの甘えた切ない声を出した。侍がなるほどと手を一つ打つ。

 直後、今まで深い眠りの中にいた昭子がむくりとその体を起こした。
「ねこちゃんがいるわね」

 起きたて一番に発したことばがこれだ。そして自分の周りに目を這わせ、猫の姿を探す。

「ねえ、今ねこちゃんの声聞こえたでしょ? ねえ」

 太郎と侍に猫はどこにいるのか問う。

「昭子さん、寝ぼけてんじゃないですかい? 猫なんてどこにもいりゃしませんよ。もしここにいるとしたらそれは死んでる猫ってもんでしょう」

 太郎が昭子の湯呑みを台所に下げる。