侍が昼日向に街中を歩くことは、まあ、ある。

 太郎と昭子と違って侍は元人間で元幽霊なのだ。昼間の太陽を体いっぱいに浴びたくなるときもたまにはある。
 陽のにおいも嗅ぎたいし、季節で変わる空気の暖かさも肌に感じたい。それに、長く霊としていすぎたせいもあってか、侍は己でも知らぬうちにふつうに生きている人と話せるような術を身につけていた。
 更に、侍が望めばその姿が見えるようになり、望まなければ見えないといった調子のよい塩梅だ。霊になっても運の良さを持っていた。

 太郎も昭子も江戸より前の時代に妖怪として生まれた妖怪のサラブレッドだったが、侍に至っては少し事情が違っていた。
 侍は死んでからもなお遊びに興じた、根っからの遊び人であった。

 死んだんだから金はかけずに賭場に入り浸れると思いついた侍は、すぐさま馴染みの賭場に入り込んだ。
 最初こそ客と一緒に賭け事に興じていたが、何やら息のかかった客しか勝つことができないと知るや、その証拠集めに走るようになった。そこで見つけたのがイカサマだった。

 かつて自分もこのイカサマの標的にされて身ぐるみ剥がされ、最終的に殺されたとわかると、どうしてもこいつを殺してやりたいという衝動にかられたものだ。

 しかしそこは生まれながらにしての、お気楽能天気、いくつになっても永遠の放蕩息子だ。悩んではみたもののどうにも取り返しがつかないんだとすとんと腑に落ちると、一晩だけは怒りに身をまかせることにして、怒りながらも眠って次の日に起きれば、昨日の怒りは昨日のことと、すっかりと忘れさっていた。

 調子のいいいものであった。