「侍さんはただの金持ちの世間知らずのお坊っちゃま。と」

 一言で侍をぶった切って、ノートに侍のことを書き換えた。
 たまこの肩をいい音を響かせながら叩いた昭子は、

「いいねえ、それでこそあたしが見込んだ子だよ。上出来」
 と、目を細めてたまこの頭を優しく撫でた。

 太郎はそんな侍の前にメロンソーダを置いてやった。

「たまちゃん、こんだけしっかり俺自身のことを話してやったのに、その一言でまとめるなんて、そりゃねえぜ」

 太郎は、しょんぼりする侍の肩を優しく叩くと、「まあ、その通りだから、仕方ない」とわざと追い討ちをかけてやった。

「あんまりだよ。俺の武勇伝を」

「なあにが武勇伝ですか。まったく仕方のねえ。侍さんはなんもしてねえじゃねえか。金にもの言わせて遊びまわってただろうが」

「ほんにあんたはそんなんだから殺されたんだよ。あーやだやだ。人間ってもんはいつの時代になっても金にふりまわされる」

 太郎と昭子にまで笑って突っ込まれた侍は、それでも俺はこの武勇伝を言うのやめないからな。金持ちってことだけが俺の武勇伝なんだ。遊び方だってたんと知ってんだぞ。表も裏も俺はわかってんだ。商売だってやりゃあできるんだからな。ただやらねえだけさ。ちきしょうめが。

 と涙目になりながら愚痴た。

 金持ちなのは己の両親であって己ではないだろうが。

 と、昭子も太郎もたまこも同じことを思ってはいるが、そこは口にせずに各々の飲み物を啜って侍の愚痴を聞いていたのであった。