「……でも、幾田さんは追い詰められていく恐怖をずっとあの教室で感じていたのよね」
戸上さんがぽつりと呟いた。
私たちは予告動画という恐怖をクラスメイト全員で味わっているけれど、幾田さんはいじめという恐怖とひとりで戦っていた。
「私、学級委員なのに、なにもしなかった。そのうち収まるだろうって思ってたし、変に巻き込まれたら自分の日常が崩れると思ってたからわざと机に向かってるふりをしてたことは数えきれない」
そう言って戸上さんが唇をぎゅっと噛んだ。
「……いじめのこと、本当に軽く考えた。こんなにも恨まれたり、恨んだりするものじゃないって思ってた……」
ハンカチで口元を押さえている戸上さんの背中を、ちづが優しく擦る。
私も、戸上さんと同じようにいじめはどこにもあると。珍しいことでもないから、いつか一軍の人たちが飽きてくれるのをひたすら待ってた。
……耐えている幾田さんの気持ちも考えずに。



