そんな最悪な空気の中で、やっぱり高野くんだけがまだ明るく振る舞っていた。


「みんな落ち着こうよ!スケコの呪いなんて絶対にないから!俺はまだ生きてるわけだし、ギスギスしないで仲良くやろうぜ」


高野くんは基本的にみんなを笑わせたい人なんだと思う。


幾田さんにスケコというあだ名をつけたことも、それが引き金になっていじめに発展したことも、楽しいだろって平気で言えちゃう人。



「それに、死んだあともこうして話題に上がるってことは、スケコにとって嬉しいことじゃん?あんなに根暗で地味なスケコのことをこんなにあれこれ言い合うって、ある意味すげーよ。まあ、俺のおかげっていうかさ」


と、高野くんが明るく笑ったところで、突然「う……」と、表情が曇る。




「どうしたの?」

近くにいた私は顔を覗きこんだ。




「はは、平気、平気」

そう言いながら高野くんが自分の首元に触れると、指先に血が滲んでいた。



「きゃあ……っ」

周りにいたクラスメイトが高野くんと距離を置く。




「みんな大丈夫だって!全然痛くないし……あ、あれ?」


徐々に見えない刃物で切られていく高野くんの首。

血を止めようと高野くんは両手で傷口を塞いだけれど、白いワイシャツが真っ赤に染まっていく。



「な、なんだよ、これ……」


やっと状況を理解できたのか、高野くんの顔から笑顔が消えていた。