「もう会わないって決めたのに、なんで追いかけてくんだよ」


「だって、会いたかったから」


「俺だって会いたかったに決まってんじゃん」


「やっと会えた。うぅ、本当に、会えたよぉ……」



とうとう我慢できず、彼の胸でボロボロと泣いた。


薄暗くなっていく空気の中、彼はわたしの背中を優しくさすってくれた。



ずっと、このままでいたかったけれど。



「綾ちゃーん! どこ?」



朱里ちゃんの声が聞こえた。わたしを探してくれているらしい。


大和くんも一緒らしく、2人分の足音が近づいてくる。



同時に、優にぃは腕をゆるめた。



「綾。行って」


「やだよ!」


「早く!」



もう離れたくない。まだ一緒にいたい。


そう思い、彼にしがみついていると。



「え、綾ちゃん!?」


「おい……」



朱里ちゃんと大和くんの声がはっきりと聞こえた。


振り返ると、ビルの角から2人が顔をのぞかせていた。



優にぃはわたしへと手を差し出す。つかむとぐいっと引っ張られた。


よろりと立ち上がった時、耳元でささやかれた。



「綾の2つ前の苗字と、俺の誕生日」って。



低いささやき声にドキッとする間もなく、とんと背中が押された。


彼はそのまま駐輪場の奥へ進み、逆側の小道へと消えていった。



よろよろと足を進める。2人も駆け寄ってくる。



「ねえ、綾ちゃん大丈夫? てか、今の……」



わたしを心配しながらも、驚きを隠せない様子の朱里ちゃん。


対する大和くんは「なぁ、さっきの……」と何かを思い出したような顔をしていた。



「ごめん! いつか話すから、何も聞かないで……」



朱里ちゃんと大和くんにわたしは頭を下げた。


2人とも空気を察したのか、このことを話題にすることはなかった。