「ユキ、おはよう。今朝は可愛い寝顔だったよ?」


学校の廊下でケイが大胆なことを口走るので、誰にも聞かれていないか焦って周りを見回す。


人通りが多いので、ケイは女っぽい口調や態度を封印していて、どこから見てもブレザーの似合う普通の男子生徒。


顔立ちが中性的だから一見女子にも見えるけど、声は完全に男の子のものだった。

これでは他の生徒にどういう関係かと誤解されてしまう。


「本当に昨日は何もなかったんだろうな」


腕を組んだ海里がケイへ疑いの目を向けている。
いつもに増して冷たく鋭い眼つきだ。


「海里、まさか嫉妬してる? 私……じゃなかった、俺がユキと一緒に寝たからって」


わざと声を低くしたケイが意地悪く笑う。


「寝た? その言い方は──」

「おい、見てみろよ」


眉をひそめた海里が言いかけた台詞は、通りすがりの男子達の声にかき消される。


「慶蔵と海里が女を取り合ってるぞ」

「珍しいー」


野次られるのを聞いたケイが、面白がって私の肩を抱き寄せた。

海里の眉がぴくりと動く。


「ユキ。今日の髪型も可愛い」

「そ、そう?」

「慶蔵が女の子口説いてるの初めて見た……」

「やっと女に目覚めたかー?」

「羨ましい? 加藤達こそ早く彼女でも作れば」