自分の本意ではないけれど、ただ先輩の命令に従っているだけ、ということ?


「家に帰れない事情があるなら、それが解決するまでは手元に置いておくしかないだろ」


海里には、もしかしたら私の傷への同情もあるのかもしれない。


「それに、今さら他の男に任せられるわけがない……」

「えっ? ……何て言ったの?」


何かを早口で告げられたので、私は海里の顔を覗き込み聞き返す。


「……何でもねぇよ」


私から顔を逸らした海里は、レジの方向へ背を向けて足早に去ってしまった。





スーパーで食材を買い込んだ帰り道。辺りはすでに薄暗い。

隣を歩く海里は、私の買った分まで持ってくれていた。


「そういえば。あんたの兄貴、妹に対してベタベタしすぎじゃないか?」


眉を軽くひそめた海里が、不意に聞いてきた。


「えっ? ……そうかな」


もしかして見られてた?
薫兄さんが私の頬に触れていたところ。