「──今、誰かと居なかったか?」


兄の背中を見送ったあと、不意に低い声が頭上から響いた。

買い物カゴを手にした海里が私の見ていた方向を訝しげに辿っている。


「あ……私のお兄ちゃん、だよ」

「…………」


変に隠すのもどうかと思い、私は海里を見上げ答えた。


「たまたま会って少し話をしてただけ」

「家族なら、帰ってこいって言われなかったか?」

「言われなかったよ。心配はしてたけど」


だろうな、と海里は浅くうなずく。


「そういえば……、海里は迷惑だよね。私がいつまでも居候してたら」


私はちらりと海里を見たあと、足元へ視線を落とす。

勢いで聞いてみたものの、返事を聞くのは怖かった。


「別に……、如月さんの言いつけだから」


海里は無愛想な聞き取りづらい口調で答えた。