先ほどまでの気迫はだいぶ消失しているものの、近寄りがたい雰囲気がある。


「……あ。海里、手から血が出てるよ」


それでも勇気を出して彼に近づき、血のにじんだ右手に触れた瞬間。

バッと勢いよく手を振り払われた。


「──触るな」


低いその声で初めて冷たく拒絶され、傷つく自分。


「ごめんね、優希奈さん。海里君は喧嘩のあとは気が立ってるんだ」


遅れて到着した春馬君が私へ弁解する。


「……そっか」


手を振り払われた、それだけのことで予想以上に深く傷ついたのだけれど。

それを隠し、何も(こた)えていないという表情で笑ってみせる。



もしかして。

海里にとって私は重荷なんだろうか。


いつも守ってもらうだけで何もできない、ただの置物。
役に立たない人形だ。


私も誰かの役に立ちたい。
人を守れる強さが欲しい。


『俺のそばでただ座っていればいい。
──人形のようにね』


最初に如月先輩に言われた言葉どおりの状態にあることが、何か悔しかった。