廊下へ出ると、周りの皆が私達を物珍しそうにジロジロと眺めてきた。
「あの……」
私は不審に思いながらも、堂々と先を歩く彼へ話しかけてみる。
「あ。自己紹介がまだでしたね。俺、1年の佐々木春馬って言います」
桃色の唇を綺麗に微笑の形にさせて、彼は答えた。
確かに、今年の一年生であることを表すえんじ色のネクタイが緩めに締められている。
「……私に何か用ですか?」
彼の横顔を見上げると、凄く睫毛が長いことに気づいた。
「優希奈さんに損はないことなんで、気にしないでついてきて下さい」
ゆ、ゆきなさんって……。
男の子に下の名前で呼ばれるなんて、何だか照れくさい。
「着きましたよ」
春馬君は『映画鑑賞同好会』と札のかかった教室のドアを開ける。
涼しい空気が入り込んできて。
私は一瞬、入る部屋を間違えたかと思った。



