何か凄く良い香りが漂ってきて、薔薇の花びらに包まれている気分になってくる。
「──岩本慶蔵。お前、その女から離れろ」
こちらへ引き返してきたらしい海里が、校内放送の呼び出し時のようにフルネームで呼びかける。
“岩本慶蔵”って、顔に似合わず強そうな名前。
「ヤダ、その名前で呼ばれると、男であることを思い出すからやめてって、いつも言ってるでしょ」
急に喋り方が女性っぽくなり、私はまさか……と彼の顔を見上げる。
海里のことを軽く横目で睨む彼は、“ジェンダーレス男子”、もしくは“お姉系”というやつだろうか。TV以外で初めて見た。
彼(?)は私に視線を移し、海里へ確かめるように聞く。
「この子が、もしかして……?」
「そう、如月さんの彼女で相原優希奈」
「優希奈ちゃんって言うのね。私のことは“ケイ”って呼んで?」
「あ……、はい」
岩本慶蔵君……ケイは、海里の横に並ぶとやや背が低く見えるものの、男子の平均よりはずっと高そうだった。
「もしも私が女だったら、優希奈ちゃんみたいになりたかったわ。良かったら私達、お友達になりましょう」



