「あの。私が洗うから」


3人分のカップを受け取り、スポンジで洗い始めると、海里が布巾を引き出しから取り出す。


水道水ですすぎ終えたカップを海里に手渡したそのとき。

落とさないようにするためか、海里の両手が私の手のひらごとカップを包み込む。

異様に長い時間……私の手の甲が彼の温かい手に包まれている。


「あ、あの……」

「──あ、悪い」


今気づいた、という素振りで海里が私の手を離し、カップを受け取った。

海里は天然、なのだろうか。

壁に掛けられた小さな鏡に映る自分の顔は、ひどく真っ赤に染まっていた。


「さっきは、ありがとう」


沈黙に耐えきれなくなり、私は黙々と食器を拭く海里に話しかける。


「別に。見られたくなかったんだろ。けど、ただ先伸ばしになっただけだったな」


先伸ばし──確かに、次に如月先輩と二人きりになったときには傷痕を見せることになるのだろう。