約束の21時、10分前。

すでに桜花山の麓には20人程の人達が集合していた。


私には、誰が敵で誰が味方なのかは分からないけれど。
彼らの持つオーラが、眼つきが、普通の人とは違うことを肌で感じる。

まるで、狼の群れに遭遇したような気分。



「海里……、気をつけてね?」


そばに立つ彼を見上げて、そう言わずにいられなかった。


「わかってる。どんな結果であれ、いつものことだからあんたは気にするな」


厳しい眼つきをほんの少し緩め、ゴミでもついていたのか、私の前髪にそっと触れた。


長い指が私に触れている……

たったそれだけのことが、私には特別な出来事に感じられた。




「春馬。優希奈を上へ連れて行け」

「りょーかい」


今夜は眼鏡を外している如月先輩が春馬君に指示し、私は春馬君の後ろをついていく。



──そのとき、私をじっと睨むように見つめる人がいて。

その視線の強さに、思わず足を止めてしまった。



風になびく、くすんだアッシュ系ブラウンの髪。
黒っぽい服装に長い手足。

吊り上がった瞳は、狼のものと似た鋭さを放っている。