15分ほど歩き、久しぶりに自宅の前に立った。

2階建てのごく普通の一軒家。

庭に車は停まっていなかったから、まだあの人はいないはず。


「ちょっと待ってて」


二人を門の外で待たせて、私は合鍵を使って急いで中へ入った。

玄関に誰の靴もないことを確認し、自分の部屋へ体を忍び込ませる。


ボストンバッグに服を詰め込めるだけ詰め込んで、トレンチコートを脱ぎ、代わりに白いウールのコートを羽織る。

襟元にラビットファーが付いていて、お気に入りのデザインだ。

……良かった、捨てられていなくて。


重いボストンバッグを抱えつつ門の外へ出て、二人の元へ駆け寄ろうとした……そのとき。


「──優希奈?」


よく知った声が、冷えた空気の間を通った。

振り返って確認しなくても分かる、やや鼻にかかった低い声。


(かおる)兄さん……」


私は体を強張らせながらも、何とか兄の方へ顔を向けた。

黒いコートの下にライトグレーの制服が覗いていたから、学校帰りらしい。