今日の夕食は麻婆豆腐。

レトルトではなく、豆板醤や甜麺醤を使って自分で味付け。

これを作ると、いつもお兄ちゃんが喜んで食べてくれたことを思い出す。


……お兄ちゃん、元気かな。


軽くホームシックにかかって箸を休めていたら、

「食わないんなら貰うぞ」

向かいの席の海里が、私の麻婆豆腐を一口すくっていった。


「あっ、私の」

「ぼーっとしてるからだよ」


海里は素知らぬ顔で、私の食べていた麻婆豆腐を口に放り込む。


「海里って……、私のお兄ちゃんみたい」


ぽつんと呟くと、海里はわずかに顔をしかめた。


「あんた、兄貴がいるんだ」

「うん。高校3年。如月先輩と同じ学年だね。学校は違うけど」

「じゃあ、あんたのこと探してるんじゃないのか」

「どうだろ……。私が家を出ることは分かっていたと思うけど」

「──そっか」


海里はそれ以上、深く聞いてくることはなく、食事を続けた。


彼は気にならないんだろうか。私の事情。

そういえば如月先輩も春馬君も聞いて来ない。
興味がないって感じなのかな。