放課後、私はまた例の部屋に連れて来られた。

海里がドアを開け、私が先に入ると、部屋の隅で机の上に座っていた男達の話し声が耳に届いた。


「姫と一緒に住めるなんて、オイシイよな」

「どっちに賭ける?」

「俺は『海里が手を出す』に千円」

「たった千円かよ」

「──じゃあ俺は、『海里君が手を出さない』に一万」


口を挟んだのは、春馬君。


「えっ、一万!?」

「マジかよ」


盛り上がる彼らの頭上に、冷酷な声が降り注ぐ。


「くだらない賭け、やってんじゃねぇよ」


静かな怒りを含んだ低い声。

一瞬で、その場の空気に亀裂が走る。


「ごめんね海里君。つい、いつもの癖でさ。
でも俺は、ちゃんと海里君を信じてるってことだから」


小首を傾げて謝る春馬君へ、海里は冷えた視線を投げた。
そのまま何も言わず窓際へ寄り、壁にもたれる。


私はどうしたらいいのだろうと、居心地悪く立ちすくんでいると。

ドアが開き、如月先輩が姿を現した。

今日は眼鏡だけは外していて、髪は下ろしたままだった。


如月先輩は私を隣に座らせ、教室内を見回した。

海里は斜め後ろで壁に寄り掛かり、外を眺めている。



「明日の夜、9時。山吹のチームと決着をつけることになった」


落ち着いた、けれど通る声で如月先輩が告げた。

机の上や椅子に座っていた男達が、雪の降る夜のようにシンと静まり返る。


「場所は桜花山。勝てば桜花高校トップの座が手に入り。負ければ当然、山吹達の下につくことになる」



桜花山……。

春は桜が綺麗な、小さな山だったはず。
夜はきっと、人通りも少なくて思い切り暴れられるのだと思う。

皆の緊張した顔からして。
きっと、決着というのは喧嘩で勝敗を決めるのだろうから……。


喧嘩じゃなくて、健全にスポーツやゲームで勝負をつければいいのに。




その後、私は海里と春馬君に送ってもらって家路に着いた。

明日の夜は私も一緒に行くらしい。