「あの人はお前を傷つけたっていうのに、なんで許すようなことを……」
鋭さの抜けた彼の瞳が揺れている。
「私も、いつまでも憎しみで心をいっぱいにするのはつらいから」
また自分は母を失ってしまうことになるのだろうけど。本当の居場所に戻るのなら、何も寂しくはない。
私には兄も父もいるし、理希だっている。
それに……。
「影島さん。独りだなんて、勝手に思わないでください」
黒髪に灰色のハイライトを入れた男の子が、足を引きずりながら影島のそばに立つ。
そして自分の左腕に結んでいた黒い布を取り去った。
「俺達のこと、独りじゃないって救ってくれたのは影島さんですよ。一緒に、帰りましょう──蒼生高へ」
一瞬、目を伏せた影島は素直に彼の手を取り、ゆっくりと立ち上がった。



