「如月先輩……?」
あんなに椿の姫に執着していたのに、この変わり身の早さはどうしたことだろう。
「ふふ、龍臣てば、ユキがいなくなってから寂しくて寂しくて仕方がなかったみたい」
隣に立ったケイが、こっそりと私に教えてくれた。
だから、必死になって手に入れたはずの椿の姫を手放した、と……?
「ケイ、必要のないことは言わなくていい」
如月先輩は私と目が合うと気恥ずかしそうに視線をはずし、海里達のいる方へ向かってしまった。
先ほどの先輩の言葉を頭の中で繰り返し、ふと気づく。
先輩、“慶蔵”じゃなくて“ケイ”って呼んでた……?
「この旧校舎から、誰一人逃がすなよ。一人残らず潰せ」
誰かの叫ぶ声がホールに響く。
旧校舎の中は冷えきっているというのに、海里は動いているせいで暑くなってきたようで腕まくりをしていた。
そのとき、彼の手首に黒い革のブレスレットが覗く。
私が贈ったものをまだ身につけているのだと気づき、目が潤みそうになる。
彼の心の中に、私を置いてくれているという証だと信じたい……。



