鈍い衝撃のあと、遅れて痛みがやってきた。

けれど想像したより痛みは軽い。

髪を鷲掴みされた頭皮の方が地味に痛かった。


瞼を開けたとき、目の前には青いシャツがあり、私は海里の腕に抱きしめられていることに気づく。


「…………」


海里は無言のまま大柄の男を睨み上げていた。


私を制すため階段を下りてきたケイの表情が一瞬にして変わる。


「女の子に手をあげるなんて……最低だな」


低い、その言葉を発したのは、ケイだった。
そんな声は今まで聞いたことがない。
普通に男の人の声だった。


「大事な人を傷つけるのは許さない……」


怒りを圧し殺した低い声音。

殴り合う音。


私が海里に抱き起こされたときには、大柄な男は呻き声を上げながら床へ沈んでいた。


カウンターをくらったときの傷なのか、ケイは切れた唇の端を薬指で拭う。


「久しぶりかも……、この感覚」


口角を緩やかに引き上げ、妖艶に笑った。


「もう二度と、戦いたくないと思っていたのに」