「如月さん」


突然、ノックの音とともに入ってきたのは、無表情な顔をした海里。

如月先輩の腕から力が抜けて、私は慌てて彼の下から抜け出した。

ソファのそばに立って、乱れた髪を直す。


そんな私を一瞥し、海里は先輩へ淡々と報告を始めた。


山吹(やまぶき)さんが、例の件で話があると」

「わかった。すぐ向かう」


如月先輩は何事もなかったかのように答えると、鞄を持って部屋を出て行った。


海里と一緒に残された私は、気まずい思いで床に落ちた鞄を拾い上げる。


「帰るぞ」


短い言葉はいつもと同じ、冷たいもので。
如月先輩にソファの上で押し倒されていたことなんて、何とも思っていない様子。

私は黙って彼の後に続いた。


「如月さんは、あんたをからかってるだけだから気にするな」

雪道を歩きながら、海里は言った。


「みんな、私の気持ちなんかお構いなしって感じだよね」

「それは……、」


嫌味っぽく言うと、海里は返答に困ったのか眉を寄せた。