影島と入れ違いのように、蒼生高の門の前に一台の黒塗りの車が停まった。


薫兄さんに促され、乗り込んだ車内。
運転席には誰かが座っている。

二十歳前後の落ち着いた男性で、高校生でないのは明らかだった。


「お願いします──冬里さん」


兄が声をかけ、振り向いたその人は、海里によく似た一見冷たそうな鋭い目をした人だった。

海里がそこにいるみたいに思えて息を呑む。


「……お願いします」


緊張しながら後部座席の奥に座った私は、冬里さんとバックミラー越しに目が合った。


「この子が薫の妹で、海里の……ね」


思いがけず優しく微笑みかけられ、目を見開く。

第一印象で冷たい人だと感じたので、こんなに簡単に笑ってくれる人だと思わない。


「すみません、私、勝手にお兄さんの部屋を使わせてもらってました」

「いいよ、海里から聞いてるし。俺は当分戻る予定はないからさ」


冬里さんはゆっくりと車を発進させた。


「昔は如月健臣(けんしん)と敵対していて、よくやり合ったな。今は俺の弟が健臣の弟と仲間になってるなんて、不思議な感じがするよ」


冬里さんが如月先輩のお兄さん──健臣(たけおみ)さんと関わりがあったとは。

その時代を私も見てみたかった気がする。