「お願いだから膝からおろして……?」


この状況に耐えかねた私は、そっと上目遣いをして兄に懇願した。

至近距離で目が合い、思わず視線をそらしそうになる。


黒く長い睫毛と滑らかな白い肌。

憂いを帯びた瞳に見つめられることは、未だに慣れない。


「じゃあ、俺のこと名前で呼んでくれたら考える」

「名前で?」


私は首をかしげて考え込んだ。

出会った頃は“お兄ちゃん”と呼んでいたけれど、高校に入ってからは距離を置くために薫兄さんと呼ぶように努力していた。

私の兄であることは変わらない事実なのだから、名前で呼ぶのは抵抗がある。

血の繋がりのない彼が兄という立場でなくなったら、ただの他人になり、異性として意識してしまいそうだから。


「えっと。薫…………兄さん」

「ん?」


不服に思ったのか、彼が軽く睨んでくる。