「如月先輩と同じで、薫兄さんも好きなの……? 椿の姫のこと」
それか、椿の姫は薫兄さんを好きだったとか?
それで簡単に言うことを聞いたとか。
「違うよ。椿の姫は、昔から冬里さんを慕っているんだ」
ゆっくりと兄は否定の言葉を口にした。
「冬里さんによく似ている、弟の佐々木海里との戦いを見せてあげると交渉したら『それなら蒼生と手を組んでもいい』と快諾してくれただけ」
確かに、椿高のイルミネーションを見に行ったとき、椿の姫は海里にすごく興味を示していた。
そのまま海里が椿高に行ってしまうのではないかと不安になったほど。
「……俺が椿の姫を好きだと思ったの?」
階段の踊り場で私のことを見下ろした兄は、不思議そうに見つめてくる。
「だって、お似合いだと思ったし……」
あの日、身長の高い兄と椿の姫が並んでいた姿は絵になっていたから。
もしかしたらと思ったのだけど。
「じゃあ、俺の気持ちには気づいてないってことか」
「……え?」
「何でもないよ」
微笑む兄に手を引かれ辿り着いた先は、見晴らしの良い学食のフロアだった。



