影島がここに現れたということは。

山吹さんや椎名君、理希も彼に倒されたということ──。


みんなが無事なのか心配で、どの程度の怪我なのか気になって、息をするのも忘れそうになる。



数秒遅れて……海里も西階段から、このフロアに到着した。


ゾッとするほど冷たい目をした海里からは、一見、血の気配はしない。

10人ほどを倒したせいで息は上がっている。


コートは脱ぎ捨て、青いシャツを着た懐かしい姿に変わっていた。


「桜花が、負けた……?」


呆然と如月先輩がつぶやき、辺りが静まり返った。


海里の到着はほんの数秒、影島より遅いだけだった。


それは海里のせいだけではなく、影島を食い止めることができなかった山吹さんや理希、春馬君達のせいでもあった。



長い静寂を破ったのは、椿の姫の柔らかな声だった。



「いいえ。今回は引き分けでお願いするわ。佐々木海里が影島並みに強いことはわかって、満足したから」


それに大将同士も引き分けだったしね、と付け加える。


「命拾いしたな、桜花」


影島のその言葉が、勝敗を決める合図だった。



如月先輩が惜しみもせず私を兄の元へ差し出す。


私は最初からただの人形だった──

改めてそれに気づかされた瞬間だった。