「ユキ、下がって。危ないから」
急にケイが私の手を引き、椿の姫の後方──西階段のそばへ誘導した。
何かと思って後ろを振り返ると、如月先輩と兄が知らぬ間に殴り合いを始めていたので唖然とする。
「何やってるの、お兄ちゃん……」
呆れたあまり、思わず昔からの呼び方で兄を呼んでしまう。
「久しぶりだよな。如月と打ち合うのは」
「やはり大将同士がやり合わないと、面白みに欠けるだろう」
拳を振り上げながら如月先輩が言った。
重い拳を兄は余裕で受け止める。
本気の喧嘩というより、二人はゲームをするかのような雰囲気で、どこか楽しんでいる風に見えた。
二人の力は、ほぼ互角。
相討ちにしかならないので、最終的に決着はつかず。
それより先に、一際ざわめきが大きくなったと気づいたときには、東階段から、灰色の髪をかきあげた影島が現れていた。
その額からは血が流れている。
先にここへ辿り着いた者が勝ち。
引き分け、ドローで姫を交換。
勝利で相手の姫を獲得。
負ければ、私は蒼生のものとなり、桜花は何も得るものはない──。



