「俺は如月が椿の姫を手に入れたがっていると知って、彼女を蒼生の元へ呼び寄せたんだよ。大事な妹を桜花から取り返すためにね」


椿の姫を使って、桜花をおびき寄せたということ?


そして私は、兄のいる蒼生高に対抗するための人質だったの……?

私が桜花にいる限り、兄は手出しができないから。




争う声が近くなり、私達は階下へ目を向けた。
東階段と西階段、どちらからも怒声が響いてくる。

人が階段から落ちるような音も重なり、不安に駆られる。



椿の姫はいつの間にか兄のそばから離れていて、西階段──海里の戦っている方へ近づいていた。


踊り場付近にいる海里達の戦いが見えているのか、艶のある唇に微笑みが浮かぶ。

そして、ぽつりとつぶやいた。


「まるで、佐々木冬里を見ているみたい……」


整ったその横顔には、懐かしさと切なさに近いものが混じっていた。