「優希奈ちゃん。ケーキうまかった。ありがとな」
私の頭をポンポンと撫でてから、理希はさっきまでの不機嫌な表情を消し、八重歯を見せてカラリと笑った。
みんなを玄関まで送ったあと、リビングへ戻ると海里はまだソファの上にいた。
「何だか、イヴのお祝いじゃなくて、お別れ会みたいで寂しかったな」
ぽつりとこぼすと、海里はソファの肘かけに頬杖をつき、こちらを見た。
「いつでもここを出ていけるように、荷物まとめておけよ」
「え? ……何それ」
「明後日、もしかしたらお前は蒼生高のものになるかもしれない」
桜花が負ければ、もう海里のマンションには居られないということだ。
「嫌だよ、そんなの。せっかく私……」
居場所を見つけたのに。
「もし負けたらの話だ。深く考えなくていい」
そばに来た海里は慰めるように私の髪を撫でた。
「優希奈のためにも、勝つから。心配しなくていい」
「うん。……必ず、勝ってね」



