「はー、いいよな海里は」


大きな深い溜め息をつき、理希が言う。


「これから、可愛い女の子と夜まで過ごすのかよ」


羨ましげに言われた海里は一瞬、なぜか固まる。


「別に外食するだけだし、期待されるようなことは何もない…………と思う」

「あ? 今、語尾が自信なさげだったな」


腕を組んだ理希は整った綺麗な眉を寄せ、小さく舌打ちをした。


理希も見た目は悪くないのだから、普通にモテそうだけど……。

見た目だけではうまくいかない、ということなのかな?


「海里。くれぐれも──わかってるよね」


ケイが声をひそめ、念を押す。


「龍臣のモノではなくなったけど、彼女は大事な賭けの対象なんだから。イヴの夜の雰囲気に呑まれないでね」

「……ああ、わかってる」


強い眼差しのケイから視線を逃がし、海里はうなずいた。


「海里君。優希奈さんのこと、泣かせたら許さないから」

「……」


横目で軽く海里を睨んだ春馬君はコートを羽織って、帰る準備を始めている。


「明後日、感想聞かせてね、優希奈さん」

桜色の唇を吊り上げ、私へ微笑みかけた。


「海里君の理性がどこまで持つか、楽しみ」

「……えっ?」


海里にはたぶん届いていない、微かな声。

何となく、からかわれているのがわかり、熱くなった頬を見られないように咄嗟に下を向いた。