「どうして? みんな、優しいのに」

「優しい……?」

その言葉を不愉快に感じたのか、海里の表情が険しくなっていく。


「あのさ……、もっと自覚しろよ」


急に立ち止まった海里は私の肩を引き寄せ、片腕で抱きしめてきた。
ふわりと柑橘系の香りにまとわれる。


「えっ……」


不意のことにドキリと心臓が音を立てる。
コート越しとはいえ、彼の胸元に密着してしまい頬が熱くなっていった。


「あいつら、あんたのこと、いつもこんな風にしたがってるんだぞ。いいのか?」

「だめ……。海里以外には、ダメ」


やっとのことで声を振り絞ると、海里の表情が少しだけ和らいだ。


「優希奈。春馬達と二人きりでは逢うなよ?
で、24日の夕方から空けといて」

「……うん。わかった」


まさか彼から誘ってくれるなんて。
名前で呼んでくれたことも嬉しくて、思わず笑顔で彼を見上げる。

すると海里は頬を赤く染めて何かをつぶやいた。


「……可愛い過ぎだろ、涙目で笑顔とか」