「勝手に夢の中に俺を出すな」


照れているのか怒った口調で抗議してくる。


「海里が勝手に出てくるから悪いんでしょー」

「俺のせいなわけあるか」

「でも……、ほんとに夢だったのかな?」


そのわりによく覚えているし、触れられた感触まで残っている。

手の甲にされたキス……心地よかったな。


「夢だろ、夢」


この話は終わりだと言わんばかりに海里は立ち上がる。

その頬はほんのり赤く染まっていた。





朝ご飯の後片づけをしている合間に、リビングに立つ海里をちらりと横目で見る。


白シャツと紺色チェックの制服に着替えた海里は、歯ブラシを口にくわえ、ネクタイを首に掛けただけの中途半端な状態でニュースを見ていた。

無防備なその様子が可愛く映り、思わず笑みをこぼしてしまう。


こんな姿を見られるのは、あと少しかもしれないと思うと寂しかった。

兄は次に会うときは迎えに行くと言っていたし、そう長くはない気がする。


──ずっと、こんな穏やかな毎日が続けばいいのに。