「兄貴は優希奈と血が繋がっていないんだよな、母親の方の子どもなのか?」
「父親の方、だよ」
「え……、それなら優希奈は、誰の子どもなんだ……?」
独り言のように海里がつぶやく。
「私の本当のお母さんは、薫兄さんの父親と結婚したあと、病気で亡くなったの」
「本当の父親は……?」
「私が生まれてすぐに別れたみたいで、今はどこにいるのかもわからない。だから、この主人公と同じで、血が繋がった家族は私にはいないの」
海里が深刻そうな顔をして床を見つめていたので、無理に笑ってみせる。
「でも、このお話の主人公は幸せになれたみたいで良かった」
「……無理して、笑うな」
低く声を出した海里は、突然私との距離を縮め、自分の胸に抱き寄せた。
「なあ……、俺じゃ優希奈の居場所になれないか? 兄貴の代わり、俺だったら駄目か?」
彼の胸に頬を押しつけられていたので表情はわからない。
でも、声に切なさが混じっていた。
心臓の音が、速い。私も彼も。