「二人きりが良いなら、俺は先に帰るよ」
振り返るとケイが無表情で立っている。
人がまばらな廊下とはいえ、誰が聞いているかわからないので、自分のことを『私』ではなく『俺』と呼んでいるみたい。
「邪魔だなんて全然そんなことない、ケイも一緒に帰ろうよ。せっかくケイのこと待ってたんだから」
「そう? 二人だけの世界って感じで、話しかけづらかったんだけど」
「そんなの気のせいだよ」
「二人が仲良くするのは今はまだ、いいけど。これ以上距離を縮めない方がいいと思う。
海里がいくら大切に思っても、龍臣の一言でユキの居場所は簡単に変わってしまうから」
ケイは同情するような目で、私というより海里の方を見ていた。
「……わかってる」
海里はケイへ視線を返したあと、私達に背を向け階段の方へ歩き出した。
ケイの忠告と似た内容を、如月先輩にも言われたことがあったと思い出す。
海里と私は、絶対に結ばれる可能性はないと。



