「……ビックリした。佐原ってピアノ弾けるの?」

海月が思いのほか目をまん丸にさせているから、可愛くて笑ってしまった。


「ガキの頃に習ってただけ。小学二年生ぐらいだったかな」


ピアノが弾けると頭もよくなると母さんが誰かに言われて、無理やりピアノ教室に通わされてた頃が懐かしい。


指長いし、耳がいいから才能があるなんて先生に煽てられて数ヶ月は続けたけど、大きなコンクールが始まる前に辞めた。


「今、弾いたのも曲調がカッコいいって俺が気に入って猛練習したんだけど、飽きて途中で放棄したからここまでしか弾けない」


俺はいつもそう。


昔から熱しやすく冷めやすい性格で、嫌というほど熱中しても、冷めてしまえば興味がなくなる。

なにをしても長続きしない。だからいい加減だってよく言われる。


そうやってフラフラとやりたいことをやって、飽きたらやめて、また楽しいことを見つけるっていう繰り返し。

上手くいってた。それなりに。

成功もしないけど失敗もしないような毎日だった。


でも、海月のことは上手くいかない。

なにをしても空回りしてる気がする。