「……なにからなにまで、ありがとうございます。必ずお金は働いて返します」

「返す必要ない」


必要あるだろうが……!

面倒みるっつーのは聞いたが。


そこまでなのか……?


つーか、お前誰だよ。

なんて表情してんだよ。

お前ほんとに……幻か?

幻(マボロシ)なんじゃねーか!?


「愁」

「おう」


柔らかい表情から打って変わって、鋭い視線を向けてくる。


「今後、極力夕烏を一人で出歩かせたくない」

「それは……俺も、その方がいいと考えていたところだ」


ピリピリした空気が流れると、少女が少し戸惑った顔つきになる。


「あの……わたし、方向音痴ではないです!」

ガッツポーズする少女。


いや、これは方向音痴とかそういう話ではなくてだな。


「ははっ」


――幻が、声を出して笑った。


(うぉお……)


これは本気だ。

本気と書いてガチだ。


幻のやつ。

女子にマジ惚れしやがった……!!


「いいか、夕烏ちゃん」

「はい!」

「君はもう、その、幻の女になったわけだろう?」

「え!?」


いや、そこで驚かれると反応に困る。

あからさまにそうだろう。

気づいてないのか君は。


君を見る幻。


……キモいくらい恋するオーラ全開だぞ?


いや、恋じゃない。

愛が溢れている。いや知らんけど。


とにかくお前は誰だ状態。


(どうしちまったんだよ……鬼総長……)


こんな姿、敵に見られちまったら。

舐められんじゃね……?


「こんなこと言うと驚かせてしまうかもしれないけど。幻のこと倒したいやつなんて大勢いる」

「総長さんを……?」


案の定驚いたようで、目を見開いている。

そうだよな。

君みたいなお嬢様には、想像のつかない世界なんだろう。


「どうして。……こんなに、いい人なのに。優しいのに」


なあこの数時間の間に君たちなにがあった?


「そりゃ、幻が強いからだ」


幻を倒せば幻より強いと証明される。