「え……」


カラスはごみ捨て場のゴミを荒らす生き物で。

たかっていると不吉なんて言われる生き物で。


『カラス』呼ばわりされるときは、きまって悪い意味だった。


「ときに人間に被害を与えるカラスがいたとする。それは、頭がいいからできることだ」

「……!」

「俺はカラスは気高い生き物だと思っているし。あの艶のある色が好みでな」

「黒がお好きなんですか?」


思えば幻さんは髪を染めていないし、服も黒で統一されている。


「濡羽色(ぬればいろ)――別名、濡烏(ぬれがらす)。俺の好む色は、夕烏の色だ」


そういって、


「……っ」


幻さんが髪に指をからめてくる。


「青みを帯びた黒。美しい」

「……美しい?」


井戸から出てくるお化け、とか。

呪いの人形だとか。


「染めるなよ」


カラスは山に……とか。

そんな嫌な想い出《トラウマ》が、途端に吹き飛んでしまう。


「……ハイ」


元々染めるつもりなかったけれど、幻さんにお願いされては絶対に染められないなと思った。