玄関の扉をあけると、いい香りが漂ってきた。


これは――…。


「ただいま帰りました……って愁さん!?」


愁さんが、キッチンに立っている。


昨日までは想像がつかなかった愁さんのエプロン姿だが、実際に目にしてみると、とても様になっている。


お兄ちゃん、というよりは。


(……おかあさん……)


「作ってくれたんですか」

「幻から連絡があった。じきに帰るからよろしく頼むと」


(あ……!)


幻さんはわたしの前で滅多に携帯をいじらない。

急な連絡が入ったときのみという感じだ。


だけどさっき、コンビニに立ち寄り飲み物を買っていたときに少しだけ使っていた。


さらっとそんな連絡入れてくれていたなんて。


たった今、お皿に盛り付けられたのは――。


「よくわかりましたね!」
 

家庭料理の定番。ナポリタンだった。


「冷蔵庫にあったカットされた野菜。調理台の上に置かれたパスタ。それだけのヒントがあれば想像がつく。味付けはオーソドックスにケチャップテイストにしたが、そこまで君の希望が反映されているかは正直わからない」

「いえいえ。名推理です!」


わたしが作ろうとしていたのも、ナポリタンだった。


「……燐さんは?」

「あいつは知らん」


ですよね。そんな気は、していました。

やっぱり燐さんを集合させるのは難しいみたい。


「いただきます!」