――前途多難。


その四文字が頭に浮かぶも、心折れるまい。


これまで受けた仕打ちに比べればどうってことないし、働くということはお金をもらうわけで、それがラクなはずない。


なにより今のわたしには幻さんがついてくれている。


それだけで、百人力だ。


「明日から、よろしくお願いいたします!」

「……でけえ声だすな」

「失礼しました! お疲れ様です!」


挨拶をして、一礼をすると事務所から出た。


「お待たせしました……!」

「おう」


幻さんがヘルメットを被せてくれる。

……自分で被れるのに。


でも、このむず痒い瞬間が、たまらなく好きだ。


幻さんのうしろに乗っていると、安全運転だってことに気づく。


スピードは出ているけれど周りより出すぎているわけじゃない。荒い運転するところなんて想像できない。


「お仕事が決まって本当によかったです。しっかり働きますね……! ありがとうございます」

「礼を言うなら燐に言え」


もちろん、燐さんに感謝の気持ちでいっぱいだ。

素敵な職場を探してくれて、スミレさんに話をつけてくれたんだ。


きっと気も使ったし、その時間に他にやりたいこととかあったよね……?


はやく燐さんに会ってお礼が言いたいな。


だけど燐さんは、

幻さんのお願いだから動いてくれたんだよ。


だからやっぱり、

幻さんにも感謝の気持ちでいっぱいなんです。


「このあと飯でも食って。それからうちくるか?」

「え……」


――幻さんの、おうちに……?