買い物を終え、愁さんのマンションに戻るのかと思いきや立ち寄ったのは――。


「お前の職場になるところだ」

「!」

「奥の厨房で働いてもらう。それなら知り合いが来ても顔合わせることもねえだろ」


おばさんがわたしを探して(いくら要らない子でも、世間体を気にしているあの人のことだ。探すフリくらいはしているだろう)、それを知った誰かに働いているところを見られないとも限らない。


お客の前に顔を出すホールでの接客業よりはキッチンとかで働くのが理想だ。


「パンは好きか?」

「はい!」


到着したパン屋さんは、商店街の中にある

小さめだけどとびきりお洒落なお店だった。


「いらっしゃい。燐くんから事情は聞いてるわ」


出迎えてくれたのは、すごく綺麗なお姉さんだった。


おそらくは美晴さんよりは、年上だろう。

ミルクティー色をしたロングヘアーの、色気たっぷりの女性。


(美しすぎる……!)


「オーナーのスミレよ。あなたは、ユウちゃんよね」

「はじめまして、スミレさん!」


スミレさん。

名前の響きまで、綺麗だなあ。


「その年で独り立ちなんて。ものすごく大変だと思うけど、応援させてもらうわ」


すっごく優しそうな人だ。


「ちょうど早朝からフルで働ける子欲しかったのよ」


微笑むスミレさんに、


「よろしく頼みます」


深々とお辞儀する、幻さん。


背中も、手の先までも

まっすぐ伸ばされている。


つい見とれそうになるが、そんなことをしている場合じゃない。


慌てて一緒にお辞儀をした。