莉緒はそれだけ言うと、チラリと振り返った。





「奏多の、同僚だから。



5年くらい、先輩だけどね」





そう言って微笑む莉緒は、女王様の顔なのに、どこか優しげだった。




きっと、本当の顔はこれなんだろうな…。





病院に着いた俺たちは颯太くんの病室へと足を運んだ。




1人用の小さな個室。




そこには、《柴崎颯太》の文字。





莉緒は扉のノブに手をかけ、そのまま止まる。




…?




どうしたんだろ。




そう思って、莉緒の手を見ると、細い指先が震えていた。





「…私なんか、入っていいのかな」




そんな問いかけに、俺は優しく微笑んだ。




そうして、多分、自分にとって不利でしかない言葉を、莉緒が欲しているだろうから。






「颯太くんは、待ってるんじゃない?」




「そう…かな」




莉緒は覚悟を決めたように、ドアを左へ流した。




個室には、点滴につながった男の子がベットに横たわっていた。