教室に入ってすぐ、俺はあいつに捕まった。
だが、俺はほぼ無視し、廊下側の一番前の自分の席に座る。
「浅賀くん、今年もよろしくね」
すると、隣の席に座っていた、穏やかそうな女子が、そう言って微笑んだ。
今年もってことは、去年も同じクラスだったのか。
「ダメだよ、笠原。こいつ、人の名前も顔も覚えてないから」
その通りだが、どうしてもといた輪から抜けて、ここに来る。
お前なんか呼んでない。
「えっと、そうなんだね。私、笠原すみれ。改めて、よろしくね」
彼女の少し悲しそうな笑顔に、俺なりに申しわけなく思う。
「……よろしく」
簡単に返事をし、カバンから本を出した。
「おい、蓮! なんで笠原は無視しないんだよ!」
あいつは俺の机に両手をつき、体を乗り出した。
うるさいし、邪魔。
騒ぐしか能がないのか。
「うるさいよ、高城」
すると、教室に入ってきたボーイッシュな女性の先生が、やつの頭を小突いた。
「あ、東先生!? もしかして……」
「そのまさかだよ。私がこのクラスの担任」