「このまま僕と一緒にいても、ツラい思いをするだけだよ」





「そんなことない!」





 振り絞るような声で彼女は叫んだ。掠れた音が、無音の室内に響き渡る。





「鈴葉……」





 彼女はしばらく顔を両手で覆い、声を堪えて泣いた。

 僕はどうすることもできず、肩を震わせる鈴葉を見守ることしかできなかった。

 落ち着きを取り戻した彼女が顔を上げた時、眼差しは力強いものへと変わっていた。





「蓮くん……私ね、本当は少しだけ気づいてたの」





「え?」





 彼女の言葉に、僕は首を傾げた。





「なにか隠してるんじゃないかって。でもそれが、こんな重大なことだとは思わなかったけど」





 鈴葉は寂しそうに笑う。笑顔と共に再び流れ出す彼女の涙を拭うことさえ、今の僕にはできなかった。





「ごめん」





「謝らないでよ。余計に悲しくなっちゃう」





「……ごめん」





 僕は謝ることしかできない。





「じゃあ、私のお願い聞いてくれる?」





 少しでも償つぐないになるのなら、そんな思いで僕は彼女の言葉に耳を傾けた。





「なに?」





「最期まで、蓮くんの隣にいさせてほしい」





 彼女は笑顔だった。泣きながら、笑っていた。





「鈴葉、だからそれは……おい!」





 突然、クラリと反転する視界。

 発作か、と慌てたが、やがて分かった原因に溜息をつくしかなかった。





「鈴葉……」