ボクは、迷っていた。
彼女のために、どうすればいいか、どうすれば1番最善の策になるのか…此処まで来るまでの間、頭の中でそればかりを考えていた。
目指すはあと、数段…。
そこまで行ってしまえば、もう後戻りは出来ない。
でも。
ボクには、託された使命があるから。
こんなボクでも、誰かの為に出来ることがあると言うなら…その為に、ボクも残りの人生への希望を此処で賭けてみてもいいんじゃないかと…そう思えたんだ…。
かつん、かつん…。
ボクの足音が、階段を蹴る。
それに呼応として、心臓が跳ねていく。
ぎぃー…
古くなった木製の扉を開き、部屋の中へと入り込んだ。
そこには、しん、と静まり返った空間だけがあり、温もりのない冷えた室温が、身に堪えた。
何も、ない。
誰も、いない。
哀しくなるほど無音のこの場所に、ボクは、父親と別れた時よりも熱い涙が溢れた。
これは、どうしても…彼女には伝えられない。
ボクでさえ、この状況が耐えられないのだから、きっと彼女に伝えたら、そのまま即刻彼女は海の水の泡と化してしまうだろう。



