【短】水に挿した花



ボクは、徐々に視界に大きく映り出した建物を、まるで老人が、腰を伸ばして眺めるようにして、見上げ溜息をついた。


「あぁ…辿り着いてしまった…」


途方もなく、気が重い。


でもボクは、長い階段を伝い、息を弾ませながら、あの部屋を目指した。


手には、一輪の花。


それは、彼女に似た白く凛とした花だった。


彼女から、それを手渡され、もしもその人がいるのなら、窓辺にこの花を挿して飾って欲しいと。


もし、そうでないのなら、この花をその人のベッドに手向けて欲しいと…。


彼女は、そう呟いて恭しくボクに頭を下げ、凛々しく微笑むと、


「ありがとう」


と言った。