チャイムの音で顔を上げる。随分話し込んでしまった。
そういえば、もう大分陽が落ちてきたなぁ。
私が教室に入った時よりも、紅蓮に溶けた部屋。

昼と夜の混ざり合う一瞬を、誰ぞ彼時というらしい。
そこから夕方が黄昏と呼ばれるようになったとか。

でも夕方の三時四時って誰ぞ彼?って程じゃないよなー。

ずっとノートを抱えたままの腕が痛い。
量はさして多くないが、小1女子には重いのだ。
今更ながらにノートを手渡す。

「…ああ、これでのこってたのか。ごめんね」

彼は疑問が解けたらしく苦笑いを浮かべた。

このご時世、少年少女は帰りが遅いと危ないらしい。
攫われるわけにいかないんで、さっさと帰ろ。

…あれ、コイツ帰れるのか?

「ね、ちゃんとあるけんの?」

大丈夫、と言って歩き出す彼。
…顔が随分と苦痛に歪んでいらっしゃいますが?

「よし、かたかせよ」

「え?いいよ、おんなのこにそんなこと…」

ったく、お前まだそんなコト言うのかよ。
小学生なんてガキなんだから、助け合ってナンボだろーに。

…それに、足痛められても困りますし?

「リレー、たよりにしてっからさ。
わるくしないでほしいし…そのぶんくらいたよってよ」

「…じゃあ、ちょっとおねがいしちゃおうかな」

照れたように頬を掻く仕草。

どうしてコイツは頼ってくれないんだろう。
友人は支えあってこそっていうのになあ。

…あ、もしや友人と思われてない?

あれか、小学生によくある「今日から友達ね!」って言わないとマズいカンジ?

嘘だろ!?今更友人宣言しろってのかよ!
ここまで馴れ馴れしくしといてそれはちょっと…

…いや、アリだな。
そうだ、この尊敬の念を今伝えればいい…!

えっまて私天才じゃない?じゃない?
天才だわ、和葉ちゃん小学一年生。

「よーし…!じゃあかえろっか!ね、いえおしえて!」

「うん、ごめん…あれ、なんでそんなにげんきなの?」

元気でなくてどうするっていうんだ。
今から友達になるんだから、楽しみに決まってんじゃんよ!